木材を仕入れ、それを売って利益を得る。これは実業で、過去、江戸時代前から行われて来たことです。もちろん、木材業者に限りません。以前はほぼ全ての業界が実業で、いかに良い物を仕入れて売るか、また製造業者も高く評価される製品を作るかを競い、自信に溢れ、胸を張って仕事をしていました。
しかし、この10数年で日本は、いや世界は大きく変わりました。実業に従事する企業よりも、ものを作らず情報やサービスなどの形のない商売が大きく伸びています。ヤフーやグーグルと言う会社名は知っていても、彼らがどのような仕組みで利益を出しているのか、私には良く理解できません。さらに金融機関も企業などへの貸し出しにより地道な口銭を稼ぐよりも、投資から投機へとギャンブルのような金融商品を生み出し、大きな利益を出しています。
私はこれは明らかに「虚業」であると思います。実業が低迷し、虚業が幅をきかせる時代になってしまいました。日本は特に厳しい状況におかれています。戦後の経済成長期には製鉄会社は大量に良質な鉄を作り、供給することが使命であり、自動車会社は大量生産によって車を庶民の手が届く価格にまで下げることに成功しました。
しかし、この物づくり、実業の原点とも言うべき姿は日本の独壇場ではなくなり、新興国も急速に力をつけて来ました。日本の自動車メーカーはコストを下げるため新興国で生産せざるを得なくなり、国内産業は急速に空洞化していきました。
木材に関しても、かつては良い材料を使って良質な家や家具などを作ることが誇りであり、材木屋は施主や大工などが欲しがる材料を仕入れて販売することで成り立っていました。利幅も十分あったので量を売る必要もなく、ゆったりとした商売でした。
しかし、住宅ブームの到来で良い材料を使って良い家を建てることよりも、いかに安く大量に建てるかが重視されてしまいました。このことが大工の腕を落とし、材木屋は量を売らなくては利益が出ない体質にしてしまいました。もちろん、今でも腕の良い大工も、薄利多売ではない木材業者もいますが、ごく少数派です。
右から左に木材を売るだけでは価格競争にならざるを得ず、経営を維持するに十分な利益を上げることは困難です。そのため当社では3年ほど前に付加価値を高めるため、油分や有効成分を残したまま低温で木材を乾燥させることのできる乾燥機を導入しましたが、出来上がった内装材の良さ、価値を十分に伝えることが出来ず、スギの羽目板なら何でも同じだ。安い方が良いと言われてしまいます。
やはり、木材本来の良し悪しだけではなく、プラスアルファーの虚の要素を加える必要がありますが、それは過去の価値観にとらわれた私には無理だと悟り、長男に会社を譲りました。
詳しくは次回!